• 内田明子

一期一会の出逢いから

好きな言葉は何ですか?と聞かれて「一期一会です」と答える方は多いと思います。

皆さんも一度は耳にしたことがある言葉かと思いますが、その意味を深く考えたことはおありでしょうか。

「初めての人との一度きりの出会い」と解釈されている方も中にはいらっしゃるかもしれません。

茶道から生まれたこの言葉には、「あなたとこうして出会っているこの時間は、二度と巡ってこないたった一度きりのもの。だからこそ、この一瞬を大切に思い、今できる最高のおもてなしをしましょう」という意味が込められています。

 

つまり、初対面の人に限らず、何度も顔を合わせている人に対しても適応できる言葉なんですね。

同じ時代に生を受け、同じ時間に同じ場所で同じ空気を吸う、言葉を交わす、共に生きる。

一番側にいる大切な人にこそ向けたい「美しい日本の心」だと私は思っています。

 

客室乗務員の仕事は、一日何百人ものお客さまをお迎えしお見送りします。

そのうち、またお目に掛かれる方はほとんどいらっしゃいません。

だからこそ、 「今このタイミングで、私ができるベストは何だろう」そう考える習慣ができたことは大きな財産になりました。 

今日は、私の客室乗務員生活の中で一番心に残る「一期一会の出逢い」について書かせていただきます。

 

 小さな手に握りしめられた2千円が意味するもの

2001年1月4日。機内で出逢った6歳の女の子とお母さんとのお話です。

その日私は、JEX675便 伊丹発宮崎行きの飛行機に乗務していました。

訓練生のOJTインストラクターをしていたこともあり、サービスは訓練生がメインで行い様子を見守っていたのですが、どうやら機内中央で何かが起きている模様。

機内販売の途中、困った顔をしてギャレイに戻ってきた訓練生に事態を聞くと

「お子さまがどうしてもJEXベアが欲しいと言って泣き出してしまいました。直前に完売したのでお詫びしたのですが、収拾がつかなくて…」

彼女まで泣き出してしまいそうだったので、そこから私がバトンタッチしました。

 

お席は19HJK 通路側からお母さま、お父さま、お子さまの3名のご家族です。

想像以上に大粒の涙を流していたお子さまに

「ごめんね~、熊ちゃんが欲しかったのね。さっきまであったのに、ないって言われたから悲しくなったのね」と声を掛けたところ

お母さまが事情を話してくださいました。

「ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ございません。実は、年末に大阪行きの飛行機で機内販売の熊ちゃんに一目惚れして欲しがっていたんです。

私は、お正月におばあちゃんがきっとお年玉をくれるから、そのお年玉で熊ちゃんを買ったらおばあちゃん喜ぶと思うけどどうかな?と提案したら賛成してくれて、今朝からずっと楽しみにしていたのでショックだったんだと思います…」

 

お子さまが小さな手に握りしめているものをふと見たら、くしゃくしゃになった1000円札が2枚。

おばあちゃんからのお年玉の2千円だったのです。

 

点が線になった瞬間。

私は、 客室乗務員である以前に一人の人として接したい と思い咄嗟にこう伝えていました。

「全て承知いたしました。熊ちゃんは必ずお手元にお届いたします。ただ、残念なことに今この飛行機にはお持ち帰りいただける熊ちゃんがおりません。在庫を確認し、数日後にお送りしたいと思いますがよろしいですか?」

「お手数をお掛けして申し訳ございません。本当に助かります。支払いは、現金書留でも振込でも都合がよい方法をご指示ください」

「わかりました。それでは今、お子さまが手に握っていらっしゃるお年玉の2千円をちょうだいしてよろしいでしょうか。私が責任をもってお送りいたします。大切なお年玉でご購入いただきありがとうございます」と言って名刺をお渡ししました。

 

どうしても、おばあちゃんのお年玉から買ったという事実を作ってあげたかったから。

 

その後、会社に報告をし在庫のJEXベアを受け取って郵送。

これでもかというくらい機内のおもちゃを詰め込んで、お手紙とともにお送りいたしました。

 

「あきちゃん」

JEXベアを郵送してから数日後。

会社にそのお客さまからお礼の手紙が届きました。

それはそれは美しい文字でしたためられたお母さまの思い、女の子からの似顔絵のプレゼントは今もなお私の勲章でありお守りです。

 

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この章のタイトル「あきちゃん」

女の子は、熊ちゃんに私の名前をとって「あきちゃん」と名付けてくれていました。

私の一期一会ストーリーは、ここからはじまります。

 

2001年春。

お母さまが新聞に投稿してくださった私との出逢いのエピソードが、見事採用されたのです!!

そしてその新聞記事のコピーを送ってくださいました。

 

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昨年暮れ、大阪行きの飛行機の中販売されていたテディベアがどうしても欲しかった娘は、年が明けてから宮崎に帰る飛行機でお年玉で買おうとした。ところが、運の悪いことに「申し訳ありません。たった今、完売したところです」と言われた。娘の目から大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。がっくりしていると客室乗務員が「よろしければ探してご自宅にお送りいたします」と言って名刺を差し出してくれた。それから五日後、首を長くして待っている娘にスチュワーデスの制服を着たテディベアが届いた。添えてあった便せんには「萌生ちゃんの涙を見た時、なんとかしてあげなくちゃと思ったよ。大切なお年玉で買ってくれてありがとう」と書かれていた。娘はテディベアにお姉さんと同じ「あきちゃん」と名付け、お礼にお姉さんの絵を送った。それから飛行機のニアミス事故が起こった。テレビのニュースを食い入るように見つめながら娘はあきちゃんをぎゅっと胸に抱き締め「大丈夫かな、お姉さん」と今にも泣きだしそうな顔で心配していた。子どもは、人の優しさ、温かさに触れて心が育っていくのだと思う。これからも娘はあきちゃんを抱き締めるたびに優しいお姉さんのことを思い出すだろう。またいつか空の上で会えたらどんなにうれしいことだろうか。

まだ、入社して2年足らず。

仕事よりも圧倒的に遊びに力を入れていた若かりし頃の私にとって、どれだけ衝撃的な出来事だったか。

 

同じような毎日でも、同じようなルーティンワークでも「同じこと」は絶対にありません。

 マニュアルになかったとしても、その場の空気間でベストを尽くす。 

 『お客さま視点を貫く』とはそういうことだと私は思います。 

 

 

  15年の月日が流れて

あれから15年が経ちました。

泣き虫だった6歳の女の子は、もう21歳。

今は、大学4年生で就職活動にはげんでいるとのこと。

 

実はこの15年間、再会ははたせていないものの毎年近況報告をしあっています。

だんだん字が上手になり、大人の言い回しができるようになり、相談してくれるようになり…

感慨深いですね。

あの日、熊ちゃんが売り切れていなかったら、この関係は成立しないのですから。

 

 めいちゃんとお母さまに感謝を込めて

 

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「いつか自分がブログをはじめたら、このエピソードを絶対に書きたい!!」

私には10年以上その思いがありました。

 

仕事でうまくいかなかった時、

お客さまから厳しいお叱りをいただいた時、

後輩にうまく伝わらず避けられるようになった時、

上司に真意が届かず認めてもらえなかった時、

 

どんな時も、壊れそうな私の心を支えてくれたのは

「あきちゃん」の記事と、めいちゃんが描いてくれた似顔絵でした。

 

今回、ブログ掲載にあたり、お母さまとめいちゃんに私の思いを伝えたところ喜んで承諾してくださいました。

この場を借りて、お二人に感謝申し上げたいと思います。

 

泣き虫めいちゃんの(と言ったら怒られるかな)輝かしい未来を祈って。

再会したら、一緒に美味しいお酒を飲もうね。

こんなに温かく素晴らしいお母さんに育てられたあなたは、何があっても大丈夫。

どうか、胸に手を当てて自分の心が喜ぶ方向に進んでください。

 

そう。自信を持って。

 

 

この記事を書いた人

内田 明子

15年半の客室乗務員生活の中で得た、人と信頼関係を築くうえで大切なこと。自分を信じる心の育て方。お客さまとのエピソードや、部下・上司とのエピソード、時には夫婦のエピソードを交えながら人間関係がうまくいく秘訣を伝えていきます。

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