• 内田明子

たとえ、たった一人でも。

洗濯物を干しながら、ベランダ越しに見える公園の景色。
野球少年たちの掛け声、ブランコがきしむ音、子供たちの無邪気な笑い声。
柔軟剤の甘い香りと相まって、心を整えてくれる日常の景色。
 
数日前に満開だった桜も、風に舞いながら「儚いからこそ美しい、儚いからこそ愛されるものよ」そんなメッセージを届けてくれているのかな。
 
でも、桜がこれほどまでに愛でられるのは、必ず春になると会いに来てくれる。
それがわかっているからなのかもしれない。
 
「散っても必ず甦る。大丈夫、待ってくれる人がいるから力を蓄えられるのよ」
今日はなぜか、そんなメッセージを受け取りました。
 
 

新たな出逢いの中で

1999年~2014年までの15年半、私はJALエクスプレス(現 日本航空)の客室乗務員として勤めていました。
日本航空が倒産した翌年の2011年、スーパーバイザーという役職に就いたことがきっかけで、当時「JALの再建に最も必要なのは、リーダーの意識改革だ」と仰る稲盛和夫氏のリーダー教育を直々に受ける幸運に恵まれ、今も私の心の中には数々のフィロソフィが大切に刻まれています。
 
今年に入って、リーダーシップとは何か、理想の上司とは何か、そんなことを深く考えるようになりました。
「こんなふうに人を思い遣る方法があるんだ」
新たな出逢いの中で、気付かせていただくことがあまりにも多く、同時に自分の未熟さを思い知らされては、落ち込みながら…。
 
「あなたは、何を心の真ん中に置きたいの?」
 
自分に問いかける日々。
そして、私の心の真ん中に置きたい信念が じわりじわりと焙り出されてくるのです。

人は、変えようとしても変わらない

 「人は、たとえたった一人でも、本気で自分の事を信じてくれる人がいたら、絶対に立ち直れる」  
 
これは、部下の指導に悩んでいた時、ある人に言われ、「できるかわからないけど、そんな上司になれるようとにかく努力しよう」と私の心に魂を吹き込んでくれた言葉です。
 
2012年9月。
私にとって、この言葉の意味をかみしめる出来事がありました。
 
事情があり、指導が必要な部下に対し、「あなたが考える教育」をするよう上司から指示を受けたのです。
急遽、休日返上で彼女の面談とJALフィロソフィをベースにした「私が考える教育」とやらを行いました。
オフィスの片隅にある小さな会議室に二人でこもって。
 
今となって思います。
 正しいことは、正しいままに言っても伝わらない。 
 人を変えようとしても変わらないんだと。 
 
当時の私には、そんなことがわかるわけもなく「必死に伝えているのに、何でこの子には届かないんだろう」「謙虚さとか感謝とか、この子の辞書にはないの?」いらだちはピークに達し、感情のままに彼女を怒鳴りつけてしまいました。
 
「同じ客室乗務員として、情けない。あなたは、お客さまの前に出る資格はない!」声を震わせながら憤りをぶつけ、すごい剣幕で部屋を出ました。
スッキリしたのもつかの間、我に返り、「言い過ぎてしまった」と深い自己嫌悪。
 
ものすごい葛藤です。
今更、「さっきは言い過ぎた」なんて格好悪いこと言いたくない。
でも、それって単なる自分のプライドじゃないか。
上司のほうがえらいと思ってるから、生まれる感情じゃないか。
でも、腹が立つし。
でも、彼女と本音で話したい。
どうしたらいいんだろう。
 
その時、頭をよぎったのが
 「人は、たとえたった一人でも本気で自分の事を信じてくれる人がいたら、絶対に立ち直れる」 という言葉でした。
 
私は、彼女を信じていなかった。
それどころか、信じようともしていなかった。
上辺だけの教育をして、えらそうにしていたのは私のほうだった。
 
信頼関係を築けるとしたら、私が変わらなければ無理かもしれない。
直感でそう思い、覚悟をして部屋に戻りました。
素直に謝った後、私の気持ちを話し、「未熟な上司だけど一緒に成長させてほしい。あなたを理解したい」と目を見て心を込めて伝えました。
 
一時の沈黙とともに、それからの時間は全く違う空気が流れ、最後はお互い涙を流しながら語り合うことができたのです。
 彼女には、彼女の思い、考え があったんですね。
 
現場が会社に対して何を思っているのか等もリアルな意見として聞かせてくれたこと、誤解している部分も含め、それを変えていくために一緒に何ができるかを話し合えたこと、「本音でぶつかる」とはこういうことだと今になってもあの日のことを思い出します。
 
 人は、変えようとしても変わりません。 
 でも、自分が変わることで、自ずと相手も変わることがあるのです。 

 決意表明と記された、彼女の思い。私の宝。

 しばらくして、彼女から手紙をもらいました。
小さい字で、びっしりとしたためられたその手紙には、自身の課題とそれを克服するためにどういった努力をしていくか具体的に書かれてありました。
以下、本人の了承を得て一部抜粋したものを掲載します。
 
…私は、本来なら「こんな人間だ」と判断、評価されてもおかしくないところ、私を指導するためだけの貴重な時間をいただき、それだけではなく、納得いくまで話し合いをしてくださいました。その後も、温かく見守り、支えてくださったこと、時に喝をいれてくださったこと、「変わったね」と自身のことのように喜んでくださること…
人は人に成長させられるのだと心から実感しました。今まで、正直なところ、自分の力しか信じていませんでした。しかし、今回のことがきっかけで、人に支えられ、今の自分が在る。ということを感じ、考えを改めることができました。今更過ぎて、本当に恥ずかしいのですが、もっともっと人との関りを大切に、温めていきたいと思いました。今後、私の目標である後輩指導に力を注ぎ、会社のためにできること、お客さまのためにできることを追求し続けたいと思います。
あっこさん、私の名前は、真っ直ぐ誠実に生きてほしいという両親の思いから名づけられたそうです。名に恥じることがないよう、謙虚な人で在りたいです。

人は意志の力で変わることができる

 
 それからというもの、彼女はいつも私を助けてくれました。
特に、後輩たちの指導に関してはどれほど力を貸してもらったかわかりません。
彼女の決意が、表情に表れ、行動に表れ、確実にカタチになりはじめたその年の暮れ。
なんと会社に、お客さまから3件も名指しでグッドコメントが届きました。
その内容があまりにも素晴らしかったので、そのうちの一つを紹介させていただきます。
 
JL1645(羽田⇒宇部)2012年12月27日
1990年代、2000年代とは違う新生JALを見た気がします。きちんとしているのに優しさを感じ、丁寧なのに丁寧すぎることがない。愛情あふれる表情は、作りものでないことがすぐにわかります。どうかクルーの皆さまに感謝をお伝えください。これからのJALをおおいに期待しながら、応援しています。ありがとうございました。
私は彼女に、 「人は意志の力で変わることができるのだ」 と教わった気がします。
そして、それはいつしか私の信念となりました。
 
先日、このエピソードをブログに書きたいと連絡をした時「私とあっこさんの物語を、どんなふうに表現してくれるのかとっても楽しみです」と言ってくれた彼女。
 
今でも、めげそうになった時、いつもあなたの手紙を読み返し「大丈夫、相手を信じ、本気で関わればちゃんと伝わるから」自分に言い聞かせているのよ。
私の心の真ん中に大切な軸を据えてくれたあなたに、心から感謝を込めて書かせてもらいました。
 

たとえ、たった一人でも

大切な人と信頼関係を築く上で、最も重要なこと。
それは、 相手の可能性を相手以上に信じ切ること ではないかと思います。
 
大きなミスをして信用をなくしたり、人を傷つけてしまったり、嘘をつき続けてしまったり。
全てが嫌になる自分がいたとしても、たった一人でも本気で自分を信じ続けてくれる人がいたら、きっとその人は、希望を持てるのではないかと私は信じています。
 
誰に対してもというのはできないけれど、せめて自分の大切な家族や仲間には、そんな気持ちを持って関わっていけたらいいな、そんなふうに思います。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

この記事を書いた人

内田 明子

15年半の客室乗務員生活の中で得た、人と信頼関係を築くうえで大切なこと。自分を信じる心の育て方。お客さまとのエピソードや、部下・上司とのエピソード、時には夫婦のエピソードを交えながら人間関係がうまくいく秘訣を伝えていきます。

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