• 内田明子

ありがとうの向こう側にも「ありがとう」

「春」
サクラと名の付く歌がどこからともなく流れ、口ずさんでしまう。
この季節になるといつも思うことがあります。
 
別れがあり、出逢いがある。
人生はその繰り返しだとわかっていながらも、いろんな感情が生まれやすい季節。
 
飛行機に乗っていた頃、3月末から4月にかけてはお客さまの気持ちをいつも以上に汲みとるよう努めていました。
窓の外を眺めながら涙する方をよくお見掛けする季節でもあるからです。
 
今、自分が抱いている感情に浸ったとき、ある女性との出逢いが思い出されます。
 
「ありがとうの向こう側にもありがとう」
 
この素敵なメッセージをくださったその方とのエピソードを、紹介させていただきます。

成田真由美さんとの出逢い

2013年12月。羽田空港内のとある会議室にて。
パラリンピックの水泳選手でもある成田真由美さんをお迎えし、「自分の可能性を求めて」というテーマで講演会が開かれました。
 
【成田真由美さんのご紹介】
・1970年 神奈川県川崎市出身
・アトランタ、シドニー、アテネ、北京と4大会連続出場
・その4大会で手にしたメダルは20個、そのうち15個が金メダル
・「水の女王」と呼ばれるほど水泳界では有名な方
・東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会理事としても活躍
・昨年、リオオリンピックでは7年ぶりに選手として復活
 
 
 
成田さんは、中学時代に脊髄炎という大きな病気を患われ下半身が動かなくなった後も、交通事故に巻き込まれ左手にも麻痺が加わったり、体温調節が働かなくなったり、他にも大きな障害を乗り越えてこられました。
 
そんな幾多な困難の中でも「ひたすら自分の可能性を信じ努力を重ねること」の意味を体現し、世界中に勇気と感動を与え続けていらっしゃるパワフルな女性です。
 
講演会で成田さんがお話しくださったこと。
13歳までスポーツ万能で、活発な女の子だった日常生活が一変し、病気と闘わなければならなくなったことへの戸惑いと苦しみ。家族に当たり散らしながらも、見えない愛に支えられ、長い時間を掛けてそこから教えられたもの。考え方一つで、人生を変えられるかもしれない。自分がそうであるように、一人一人に可能性は秘められており、それを見つけるのも開花させるのも自分次第であること…。
 
お話の中で、身体障害者に対する日本の実情を聞かせてくださいました。
 
身体障害者用の駐車場やトイレが設置されていたとしても、一般の車が使用しないようにという理由で真ん中にカラーコーンが立てられてあったり、喫煙所の代わりに使われないようにという理由で施錠されていたり、全く意味がないことがよくあるそうです。
 
「お近くでもどうぞ。車椅子のお客さまもご利用ください」とシールが貼られたタクシーの運転手に舌打ちされたり、エレベーターを待っていても満員で入ることができず何度も何度も見送ることも少なくないとか。
 
東京オリンピックを控えた日本が課題にすべきことは、 ハード面のバリアフリーを整える前に、私たちが障害のある方々と助け合っていくための「心のバリアフリー」を育てていくことが先決 だと心に刻んだことを覚えています。
 

失ったものを数えるのではなく、得たものを数えていく

成田さんの言葉には、不思議な力があります。
 
 「私は、失ったものを数えるのではなく、得たものを数えていく」 
 
これは、2013年10月15日の国会で、安倍首相が
「日本が世界に誇るアスリート成田真由美選手が、かつて私に語ってくれた言葉です。意思の力に裏打ちされているからこそ、前を向いて生きていこうとする姿勢に強く心を打たれました」
所信表明演説で引用された成田さんの言葉です。
 
成田さんは講演の中でこんなことも話してくださいました。
障害を与えられたからこそ、こうやって多くの方々の前でお話させてもらい出逢いが多い人生を送れている。車椅子に乗っているからこそ、人よりも「ありがとう」という言葉を使う場面に恵まれている。そうやって得たものを数えていくとはるかに失ったものより多いことに気付く。そして自分は幸せだということも。目標を持つということはとても重要。本当に叶えたい目標があれば、人は必ずがんばれる。
目標に向かっている自分を愛おしく思える。大切なのは、目標を達成した後、それで終わりと思わないこと。天狗になるのではなく、また新たな目標を設定し、一からスタートする謙虚さや素直さを持つこと。

ありがとうの向こう側

この講演会で私は、司会進行を務めさせていただきました。
会場の控室で、紹介の仕方等失礼がないかを確認し打ち合わが終了した頃。
 
実は、ある出来事が起きました。
私は今日この記事を書くまで、その事について誰にも話したことがありません。
 
「講演会が始まる前にトイレに行っておこうかしら」と成田さん。
「そうですね、では私がご案内します」
そう言って、成田さんを化粧室にご案内いたしました。
廊下でお待ちしていたところ、成田さんはすぐに戻ってこられました。
「ちょっと狭いかも」と笑いながら。
「え???」
 
それから、私の頭の中は真っ白。
周りにも聞こえるんじゃないかというほど心臓はバクバクしていました。
私は、車椅子の方が利用する化粧室の場所を事前に調べていなかったのです。
 
動揺して言葉が出ない私に「大丈夫、大丈夫!一緒に探そう」と励ましてくれる成田さん。
今思い出しても、その優しさに涙が溢れそうです。
 
それなのに私は…
紹介の仕方が失礼かどうかよりも重要なこと。
接客者としてあってはならない失態。
今日までそれを語れなかったのも、自分の弱さなのだと思います。
 
講演会の二日後、成田さんから私宛にお手紙が届きました。
「(中略)…私は幸せ者です。みんなに支えてもらって、囲んでもらって、守ってもらっています。ありがとうの向こう側にも「ありがとう」ステキな出逢いをありがとうございました」
美しい文字で、美しい心のメッセージをいただき涙が止まりませんでした。

そこから得たもの

退職をしてから、2年半が経ちます。
今になって思うこと。
 
私は、あの出来事をずっと無意識にも覚えていて、自分を責めながらも、同時にその苦い経験を無駄にしたくないと思い続けていたんだということ。
ユニバーサルマナー検定を受講し、「自分以外の誰かをおもいやること」について理解を深めたいと思ったことも、自分が何か力になれるとしたらそれは何だろうと考える習慣がついたことも。
あの時の失敗のおかげだとやっと思えるようになりました。
 
成田さんがおっしゃった 「考え方一つで人生を変えられるかもしれない」 
本当にその通りだと思います。
 
 ありがとうの向こう側にも「ありがとう」と言える、そんな生き方がしたい。 
 
大切なことを教えてくださった成田真由美さん。
ステキな出逢いをありがとうございました。
ご活躍をお祈りしています。
 
 

この記事を書いた人

内田 明子

15年半の客室乗務員生活の中で得た、人と信頼関係を築くうえで大切なこと。自分を信じる心の育て方。お客さまとのエピソードや、部下・上司とのエピソード、時には夫婦のエピソードを交えながら人間関係がうまくいく秘訣を伝えていきます。

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